
作品紹介 俳句
獅子吼令和7年12月号より
主宰の一句
クリスマスイブを期限の定期券 鵠士
主宰句(道統の句) 大野鵠士
「この秋は 」
天上に太白地には虫時雨
残像はすみれ色なり秋灯
三日月に列車は光る棒と化す
弓張月新幹線は光の矢
流れ星とはミシュランの星ならず
鉦叩母に聞きたき父のこと
スカーフの刈安の黄は母恋か
うろたへるかくも草虱に好かれ
もしかして愉快犯かも曼珠沙華
とりあへず茸は熊に食はせとけ
壁にぶつかり木犀の香ぞ強き
賢さは愚かさに似て毒茸
望の月骨の髄より光りけり
はぐれ月いづこの空をいざよへる
帰りなむいざ立待月と歩を合せ
タワーマンションの陰より居待月
寝待月仰ぐことなくねまりけり
更待の月の孤高の光かな
ラッパーも法螺貝吹けり秋の暮
二つとせ富士に初雪降つたげな
和魂は汝に託さむ秋燕
亀首を北へ向ければ鶴来る
父母未生以前の露の光かな
なつかしき田舎銀座の秋の灯よ
獅子吼令和7年11月号より
伊吹燦燦(幹事同人代表句) 大野鵠士選
草に地に留まるとなく秋の蝶 小林 節子
乱調の水の惑星曼珠沙華 瀬尾 千草
秋風や桃配山夕暮れて 宮本 光野
アルカリの苦味の記憶天の川 塚本 六可
裏切りの恋空つぽの酸漿は 南雲 玉江
添水生むリズム詩仙の間に届く 上田 旅風
台風や水の塊落ちてくる 本屋 良子
稲妻にふと一閃の多佳子の句 溝野 智寿子
身に入むや何も聞えぬ風の秋 藤塚 旦子
閉店の紙一枚やちちろ虫 名和 よちゑ
今生の残り時間よ盆踊 澤井 国造
鵜舟照覧(維持同人代表句) 大野鵠士選
虫時雨てふ柔らかな枕なる 矢野 鞆女
星月夜素数無限にあるといふ 五島 青沙
風立ちて夜を旅する一葉かな 柴田 恭雨
思ひ遣る言の葉一つ蓼の花 岡﨑 裕乃
丹念に小骨を外す初秋刀魚 武藤 真弦
風さつと水面の月を払ひけり 草訳 平
新しき出会ひの街に色鳥来 村上 三枝
木犀の香より色彩れ出る 古谷 容子
手の指を曲げて伸ばして夜長かな 杉山 玲香
かぐや姫月見茶会に降りて来よ 髙橋 よし子
メニエールてふブラックホール秋冷ゆる 安田 美代
萩の風終の栖の屋根青き 島 亜蘭
けふといふ貴き一日秋茜 内藤 千壽子
踏青抄(一般会員代表句) 大野鵠士選
丸い物三角にして西瓜食ふ 松嶋 粋白
動かねば鹿と気付かぬ木立かな 鈴木 朋子
キスが好きてふ回文に秋暑し 荻原 みのり
まなかひを影の行き交ふ赤蜻蛉 衣斐 佐和子
澄む水にきらきらと鮎翻る 三島 乙葉
吾の句を父に見せたき盆会かな 山口 惠祥
とまどへりあまりに軽き空蝉に 高木 杜蒼
迫り来るシテの眼や月今宵 服部 美由貴
蟷螂の三角顔は好紳士 川井 功子
月の舟喜怒哀楽を乗せたるか 碧 理子
身に入むや開けづらくなる瓶の蓋 土川 修平
鰯雲一番星の見え隠れ 山本 朗
小鳥来る小屋のペンキを塗り替へて 名和 8m8m伸夫
一つ葉集(同人・一般会員の枠無し)代表句
(選者 柴田 恭雨)
不知火の波のあはひに人魚をり 橋村 洋子
秋風に言の葉散つてしまひけり 村上 三枝
言ひかけて呑み込む言葉螽斯 塚本 六可
瑕瑾なきプルシャンブルー天高し 溝野 智寿子
光芒の一筋眩し秋の空 日乃 藤雨子
野仏の肩借りてをり鬼やんま 谷口 樵歩
(選者詠)
夕影にくすむ泡立草の色 恭雨
東花賞
東花賞(とうか)は、獅子門の結社賞で、年に1回、20句一組で募集し、審査は道統と獅子門内部の審査員および外部審査員1名により行われます。
通常は、10月中旬頃に応募締切、審査を経て翌年の獅子吼1月号で結果が発表されます。大賞、佳作、奨励賞が設けられています(該当なしの場合もあります)。
令和6年の作品募集は、9月を予定しています。
第20回東花賞受賞作品(令和6年)
「無窮の楽 」 柴田 恭雨
蓮弁の菩薩の笑みよ春の風
春雷や不安は胸に常に在り
屠らるる牛炎天を曳かれけり
夏菊に朝風細く通り過ぐ
ラジオよりユーミンの声夜の秋
里山へ迫る夕闇桐一葉
日差しまだ強しカンナの咲き乱る
開いてはまたすぐ畳む秋扇
畏れとは憧れなるや迢空忌
湖に風透き通る白露かな
空の色水に映して近江秋
秋鵜飼闇深ければ光濃し
柳散る去りゆく人は振り向かず
故郷の厠の隅にちちろ鳴く
母優し祖母なほ優し富有柿
紫紺なる空より木の葉降るばかり
冬銀河無窮の楽を奏でけり
十一面観音多し湖北雪
幸せといふ逃げ水のやうなもの
別れ霜語ることまだあつた筈
佳作
「散歩道」 松川 正樹
寒明けや門で渡さる万歩計
春風や少年鳴らすサキソフォン
谷戸を行く水豊かなり春の鳶
耕人の山際にあり雲ひとつ
せせらぎや春惜しみつつ橋渡る
葉桜の影の色濃き日暮かな
老鴬の声よく通る切通し
供花もなき野仏一つ五月闇
老農の手指忙しく田草引く
夕立あと丘の起伏に日の光
坂長く踵に絡む残暑かな
ちちろ鳴く人影もなき治水の碑
虫好きの少年と逢ふ散歩道
秋燕するりと抜けし歌碑の道
分け入れば木の実時雨の谷の径
夕星や刈田の匂ひ芒洋と
晩鐘やいつもの道の冬落暉
畝つくる人を遠くに野水仙
探梅の列の後尾に背を伸ばす
坂上に久闊の友日脚伸ぶ
奨励賞
「栞紐 」 名和 よちゑ
平積みに並ぶ文豪夏休み
剣玉の握りの汚れ爽やかに
子の髪に付いて離れて秋の蝶
鬼の子に程良き風の子守唄
ガム噛んで警め受くる美術展
ぽつかりと口開く古墳の花
月に雲ひと夜の雨に沈む村
かはほりや水の匂ひの闇に消ゆ
水引いて虫一斉に輪中村
寄せ墓の重なり合うて萩の風
包丁の力を抜いて桃を剥く
かぞへ直す鬱の画数夜半の秋
曖昧な助詞の一字に泣く夜長
夜学生交換日記捨てきれず
美濃国晩生の稲の花揺るる
汀女の忌月夜に渡る長良橋
長き夜や少しほつるる栞紐
稲穂波癌病棟の南口
月の宿鳥獣戯画に迷ひ込む
水澄むや芭蕉涅槃図の前に立ち