作品紹介 俳句

獅子吼令和8年5月号より

主宰の一句

子雀や犬の眠れる傍らに  鵠士 


主宰句(道統の句) 大野鵠士

獅子門に雪見船句会ありし頃、 しばしば長良橋を渡り、 対岸へ 「燗番娘」 なる旨酒を買ひに走りぬ 今、 飛騨高山は宮川に架かる筏橋を、 味噌買橋と呼びしことを思ひ出でて

「喜望峰 」 

淡雪や酒買橋のゆき帰り

針供養写真の母は女学生

逍遥はのの字のの字に梅の園

クロッカス咲きたり猫の通ひ路に

春の鳥汽車の形のチョコレート

手文庫の蓋百年の春の塵

安吾忌や身辺に反故散らかりて

侮れぬものの一つに春の風邪

三月十一日になゐなかりせば

戦多し北半球は春なれど

春灯の陰地球儀の喜望峰

線として影よぎりけり初燕

名を問へど汝は答へず彼岸河豚

春の土信長の城この下に

磁気浮上鉄道やがて春の土

ミサイルは玩具にあらじ春の闇

人類の黄昏長し霾晦

春の鹿二頭三月堂の前

ネオンきらら道頓堀の水温む

重たげに風を去なせり雪柳

春の朝目玉焼はた玉子焼

水の上滑るかに春障子かな

春灯も昭和の色に点りたり 

獅子吼令和8年5月号より

伊吹燦燦(幹事同人代表句) 大野鵠士選

たまさかの点滴玉の緒も日永    宮本 光野

自由なる孤独も抱き魚は氷に    武山 瑠子

うたかたの地につくまでの春の雪  後藤 朱乃

囀や界隈といふ流行語       瀬尾 千草

白梅に濃淡きざす夕まぐれ     瀬戸 斐香

山々は雲を押し上げ四温晴     武藤 真弦

かぶりつく鰯の頭節分会      松尾 一歩

牡丹雪ラインダンスのごと過ぐる  面手 美音

踏み歩く土柔らかに雨水かな    片桐 栄子

豆撒きや零して拾ふ福一つ     藤井 大和

雪しんしん眠れば母の胎内に    奥山 ゆい

膝に来て爪柔らかな子猫かな    名和よちゑ

靴音も杖突く音も梅日和      江田はじめ

包丁の当り軟らか春キャベツ    溝野智寿子 

鵜舟照覧(維持同人代表句) 大野鵠士選

市中の風に馴れ染め野水仙     髙木 節子

昨日のこと今日は昔に山笑ふ    彦坂こやけ

ミステリー目途の付くまで春炬燵  羽根 佳代

薔薇色の薄き傷跡春の月      矢野 鞆女

ビートルズ聞き八朔はジャムになる 大竹 花永

母待ちてゐるかに点り春灯     柴田 恭雨

神の島浮かぶ湖春兆す       碧  理子

闇夜ゆゑ戸の隙間より梅匂ふ    松尾ひろし

句は生くる力と春は立ちにけり   髙橋よし子

断ち切れぬ思ひあるかに春の雪   服部 華宵

広重の東海道は二月富士      海老名登水

牛声はスローモーション春めける  大成 空阿

中空に光のつぶて白鳥来      衣斐佐和子

踏青抄(一般会員代表句) 大野鵠士選

古文書の文字絡み合ひ菜の花忌   日乃藤雨子

掃初やまづ南天の根元より     服部美由貴

サボテンの齢十八春隣       松嶋 粋白

漂泊といふ旅思ひ春を待つ     太田 千陽

巣に帰る一羽のはぐれ寒鴉     高木 杜蒼

まだら雪降り立つ鴉何思ふ     小柳 いく

金平糖掌に載せ春隣        谷 ふみ香

空気縦に割る声高し寒稽古     河田 容子

梅の香に灸一つを据ゑにけり    荻原みのり

うつ田姫空吹く風に乗り来たり   岩田 純華

串刺しのおでんでんでん太鼓かな  鈴木 朋子 

一つ葉集(同人・一般会員の枠無し)代表句

(選者 柴田 恭雨) 

啓蟄や小さきものに小さき影  面手 美音

水温む生きとし生ける物動く         塚本 六可

停戦の糸口いづこ花ミモザ   大野 啓子

紅梅の色冴え冴えと空青し      日乃 藤雨子

山の気の満ちて咲きたる藪椿  溝野 智寿子

看護師の元気な声よ黄水仙   石原 かめ代

嘘少し綴りし手紙月朧     土川 修平

(選者詠)

銀砂子撒くかに春の和歌の浦      恭雨

東花賞

 東花賞(とうか)は、獅子門の結社賞で、年に1回、20句一組で募集し、審査は道統と獅子門内部の審査員および外部審査員1名により行われます。

 通常は、10月中旬頃に応募締切、審査を経て翌年の獅子吼1月号で結果が発表されます。大賞、佳作、奨励賞が設けられています(該当なしの場合もあります)。

 令和6年の作品募集は、9月を予定しています。

凍蝶来    柴田 恭雨

春風や今も行き交ふ渡船

水音に暮れけり山葵田も人も

そつと手を繋げば光る春の星

隠国の長谷のみ寺へ花の雨

空の青水の青けふ夏立つ日

夏の川光の刃跳ね返す

合歓の花恋の痛みを知りし日よ

土用波風も昨日を忘れよと

発車ベル鳴つて短き夏の果

甘美なる世に苦瓜の苦さかな

波の上に十日の月の光りをり

この花野越えれば母と会へさうな

師の恩に未だ報いず紫苑咲く

哀れなるもののひとつよ秋鵜飼

国道に起点終点花カンナ

水走る音宗忌の夕間暮

幻想の地平線より凍蝶来

孤独てふ伴侶と共に冬薔薇

この先はただ一筋の雪の道

ときめいてざわめいて春焦がれ待つ

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