
作品紹介 俳句
獅子吼令和7年2月号より
主宰の一句
門前に犬のゆばりよ梅日和 鵠士
主宰句(道統の句) 大野鵠士
「 K音 」
真打は出囃子に乗り神無月
ロボットの韋駄天走り神の留守
仏滅の山葵は辛し少林忌
裏山の時雨は猿の涙かも
片時雨銹色といふ華やぎも
小夜時雨疾走したる救急車
垂れて垂れて水洟細き蜘蛛の糸
咳き込んで死後の世界を観念す
三橋鷹女に申す
石蕗はただ黙りの花ならず
目薬に顔汚したり憂国忌
租も庸も調も租税よ冬鴉
旧新橋駅跡
里程標ゼロに始まる冬の旅
強霜や松はいよいよ松らしく
しろがねの星地に落ちて霜の花
交響楽なすや冬木の枝々は
身の内に棘抱へたり冬さうび
眠りたる山を映してコンパクト
冬灯円空仏の影ぞ濃き
金之助、清、鏡、鏡子そしてK
K音といふは因縁漱石忌
日短し老人いよよ気短し
日輪の地を這ふ一日冬至けふ
越の国恐竜像に雪積もる
数へ日や石垣に石犇めいて
共に年越すもの杖とコルセット
獅子吼令和7年2月号より
伊吹燦燦(幹事同人代表句) 大野鵠士選
そと聴かむ体の声と秋の声 片桐 栄子
新豆腐孤独な白となりにけり 塚本 六可
銃眼を過る黒猫冬ぬくし 名和よちゑ
行く秋や裁縫箱に赤いチャコ 宮本 光野
解体の音止み青き冬の月 奥山 ゆい
谷川氏の訃報寒々生きること 船渡 文子
急カーブ冬立つ長良川鉄道 小石 正兄
われからや海風重き橋渡る 面手 美音
冬雲の計りかねたる重さかな 柳 蘭子
潮騒のここまで届く冬座敷 松尾 一歩
光年にくつさめをして詩人逝く 河合はつ江
葡萄甘しテレビの流す地震のこと 後藤 朱乃
蕉翁の句碑の挿頭に返り花 溝野智寿子
鵜舟照覧(維持同人代表句) 大野鵠士選
身の内に執着の澱花八手 五島 青沙
晴れ渡る空島原は水の秋 柴田 恭雨
風音に驚きて北塞ぎけり 杉浦 まり
手の柚子のまこと武士めく面構へ 岡﨑 裕乃
石仏の対話はしづか小六月 武藤 真弦
本棚の埃を払ひ文化の日 羽根 佳代
パン工房匂ひ際立つ今朝の冬 草訳 平
冬構さてとどこぞをどうしやう 渡邉 義弘
昼酒に背徳感を神無月 瀬戸 斐香
菊人形花の萎ゆるを如何せん 内藤千壽子
漣を子守歌とし浮寝鳥 上田 旅風
ゆらゆらとゾンビのやうに枯蓮田 松川 正樹
茸食ぶ体のどこか目覚めたる 髙木 節子
踏青抄(一般会員代表句) 大野鵠士選
踏切のなかなか開かず日短か 衣斐佐和子
潔く真つ直ぐ生きむ石蕗の花 服部美由貴
団栗を拾ふ声する社かな 碧 理子
選り分けて団栗拾ふ吹溜 杉山 玲香
三面鏡に吾を捜してそぞろ寒 谷 ふみ香
鬼の子の揺籃ゆらり一人ぼち 三島 乙葉
タクト振る背中嫋やか冬うらら 箕浦 久子
鐘の音陰々として冬に入る 和田 勝子
廃線のバラスト除ける一茶忌よ 西尾えり子
朽野や野積みの薪はあめ色に 鈴木 朋子
あれこれと思ふ鳥獣戯画夜長 松嶋 粋白
一つ葉集(同人・一般会員の枠無し)代表句
(選者 柴田 恭雨)
真実は寧ろ凸凹龍の玉 塚本 六可
北吹くやオーナメントに散る光 日乃 藤雨子
北風に見る幻や寒太郎 草訳 平
風吹いて枯葉の小判裏返す 面手 美音
縁結びの御札参りや冬日和 石原 かめ代
散紅葉白き車を覆ひけり 服部 華宵
冬籠また読み返す獅子句かな 矢橋 初美
流行語「ふてほど」とかや年の暮 松橋 五笑
どす利かせ唸る黒猫路地寒し 渡邉 義弘
(選者詠)
何もかも冬の色して海荒れて 恭雨
東花賞
東花賞(とうか)は、獅子門の結社賞で、年に1回、20句一組で募集し、審査は道統と獅子門内部の審査員および外部審査員1名により行われます。
通常は、10月中旬頃に応募締切、審査を経て翌年の獅子吼1月号で結果が発表されます。大賞、佳作、奨励賞が設けられています(該当なしの場合もあります)。
令和6年の作品募集は、9月を予定しています。
第20回東花賞受賞作品(令和6年)
「無窮の楽 」 柴田 恭雨
蓮弁の菩薩の笑みよ春の風
春雷や不安は胸に常に在り
屠らるる牛炎天を曳かれけり
夏菊に朝風細く通り過ぐ
ラジオよりユーミンの声夜の秋
里山へ迫る夕闇桐一葉
日差しまだ強しカンナの咲き乱る
開いてはまたすぐ畳む秋扇
畏れとは憧れなるや迢空忌
湖に風透き通る白露かな
空の色水に映して近江秋
秋鵜飼闇深ければ光濃し
柳散る去りゆく人は振り向かず
故郷の厠の隅にちちろ鳴く
母優し祖母なほ優し富有柿
紫紺なる空より木の葉降るばかり
冬銀河無窮の楽を奏でけり
十一面観音多し湖北雪
幸せといふ逃げ水のやうなもの
別れ霜語ることまだあつた筈
佳作
「散歩道」 松川 正樹
寒明けや門で渡さる万歩計
春風や少年鳴らすサキソフォン
谷戸を行く水豊かなり春の鳶
耕人の山際にあり雲ひとつ
せせらぎや春惜しみつつ橋渡る
葉桜の影の色濃き日暮かな
老鴬の声よく通る切通し
供花もなき野仏一つ五月闇
老農の手指忙しく田草引く
夕立あと丘の起伏に日の光
坂長く踵に絡む残暑かな
ちちろ鳴く人影もなき治水の碑
虫好きの少年と逢ふ散歩道
秋燕するりと抜けし歌碑の道
分け入れば木の実時雨の谷の径
夕星や刈田の匂ひ芒洋と
晩鐘やいつもの道の冬落暉
畝つくる人を遠くに野水仙
探梅の列の後尾に背を伸ばす
坂上に久闊の友日脚伸ぶ
奨励賞
「栞紐 」 名和 よちゑ
平積みに並ぶ文豪夏休み
剣玉の握りの汚れ爽やかに
子の髪に付いて離れて秋の蝶
鬼の子に程良き風の子守唄
ガム噛んで警め受くる美術展
ぽつかりと口開く古墳の花
月に雲ひと夜の雨に沈む村
かはほりや水の匂ひの闇に消ゆ
水引いて虫一斉に輪中村
寄せ墓の重なり合うて萩の風
包丁の力を抜いて桃を剥く
かぞへ直す鬱の画数夜半の秋
曖昧な助詞の一字に泣く夜長
夜学生交換日記捨てきれず
美濃国晩生の稲の花揺るる
汀女の忌月夜に渡る長良橋
長き夜や少しほつるる栞紐
稲穂波癌病棟の南口
月の宿鳥獣戯画に迷ひ込む
水澄むや芭蕉涅槃図の前に立ち