
作品紹介 俳句
獅子吼令和7年4月号より
主宰の一句
雪の城月の城いま花の城 鵠士
主宰句(道統の句) 大野鵠士
「 春の雪 」
一年余を経てなほ揺れを忘れ得ず
地震に割れ地に初空の落ちしこと
偽物の血の流れたり春芝居
雲一朶ヤマトタケルの白息か
発掘の和同開珎冬の鵙
寒四郎どこか役者の名にも似て
読み返す枕草子寒昴
葉牡丹の渦に落ちたる星微塵
凍滝や色々の音封じ込め
雪女溶けて魂のみ残る
炉語りに微かに自在鉤の揺れ
雪嶺てふ大きなナイフ雲を切る
ひた歩みけり凩を真つ向に
この海の彼方はロシア雪中花
疑へり暦のとほり春来るや
アイゼンの爪はさながら鬼の牙
彫り深き生命線よ春隣
節分や父の襤褸を身に纏ひ
豆を打て己が心の鬼にこそ
鳩来たるソーラーパネル春立つ日
公園といへど城跡蕗の薹
消しゴムも片減りしたり猫柳
風の影見ゆる思ひの雨水かな
血に染まる昔ありけり春の雪
日時計も光の春を喜べり
獅子吼令和7年4月号より
伊吹燦燦(幹事同人代表句) 大野鵠士選
細切れの記憶のごとし風花は 瀬尾 千草
ため息の言葉とならぬ霙かな 宮本 光野
月明り音なく樹氷育ちをり 小林 節子
裸木や句より弖爾乎波削ぎ落とし 奥山 ゆい
ためらはず告白せよと初神籤 名和よちゑ
着脹れて祢宜も氏子も神祀る 後藤 朱乃
小さき爪確と大地を初雀 藤塚 旦子
人込みも利益の一つ初詣 藤井 大和
白菜のミルフィーユそれだけの卓 工藤美佐子
年忘溺るる酒は美少年 南雲 玉江
鵜舟照覧(維持同人代表句) 大野鵠士選
春小袖秀衡椀の海老真薯 五島 青沙
水さつとかけて爼始かな 武藤 真弦
月光は無垢なる雪を穢さざる 柴田 恭雨
色褪せし百閒本に浸る冬 河合 素汀
ブランドの皿に盛らるるお節かな 髙橋よし子
拝むかに藁を綯ひをり注連作 矢野 鞆女
枯芝の広場カリヨン鳴り渡る 杉山 玲香
歌留多読む小町の札の有り処 村上 三枝
ロボットに優しき心福寿草 島 亜蘭
小正月母と娘の声弾む 内藤千壽子
初夢に昔の彼氏現るる 棚橋 悦子
一滴に麻酔乱入山眠る 大成 空阿
踏青抄(一般会員代表句) 大野鵠士選
初旅や富士の裾野の長きこと 衣斐佐和子
冬晴や海にガラスの如き波 河田 容子
葉牡丹の渦よ歪んだ小宇宙 服部美由貴
鰤釣つて腕の痺れも心地よし 名和 伸夫
風花と一に舞ひたり旅心 日乃藤雨子
朴落葉見付けて朴の木を探す 太田 千陽
いまだ見ぬ世界は広し枯木星 鈴木 朋子
紅を差し胴長靴や池普請 橋村 洋子
ゆつたりと旅の顔して初湯かな 和田 勝子
曇天に福を待ちたる初巳かな 樗木 伯哉
一つ葉集(同人・一般会員の枠無し)代表句
(選者 柴田 恭雨)
ばつきや摘む遠山並に雪残る 松川 正樹
葉牡丹に目眩覚ゆる光かな 塚本 六可
梅開く一輪二輪三輪と 桑訳 平
跳ねながら公魚空へ釣られけり 溝野 智寿子
地母神の朝の目覚めやクロッカス 各務 恵紅
白壁の旧家零るる寒椿 藤井 大和
窓の雪涙流るるやうに落つ 工藤 美佐子
スペインの壺に生けたり花ミモザ 橋村 洋子
立春や風の匂ひの変はりをり 大野 啓子
生垣にみるみる積むや春の雪 岩田 純華
寒の夜やワープロ未だ感熱紙 谷口 樵歩
雲竜の奉納春を呼びにけり 松橋 五笑
(選者詠)
足場やに逃げゆく二月惜しみけり 恭雨
東花賞
東花賞(とうか)は、獅子門の結社賞で、年に1回、20句一組で募集し、審査は道統と獅子門内部の審査員および外部審査員1名により行われます。
通常は、10月中旬頃に応募締切、審査を経て翌年の獅子吼1月号で結果が発表されます。大賞、佳作、奨励賞が設けられています(該当なしの場合もあります)。
令和6年の作品募集は、9月を予定しています。
第20回東花賞受賞作品(令和6年)
「無窮の楽 」 柴田 恭雨
蓮弁の菩薩の笑みよ春の風
春雷や不安は胸に常に在り
屠らるる牛炎天を曳かれけり
夏菊に朝風細く通り過ぐ
ラジオよりユーミンの声夜の秋
里山へ迫る夕闇桐一葉
日差しまだ強しカンナの咲き乱る
開いてはまたすぐ畳む秋扇
畏れとは憧れなるや迢空忌
湖に風透き通る白露かな
空の色水に映して近江秋
秋鵜飼闇深ければ光濃し
柳散る去りゆく人は振り向かず
故郷の厠の隅にちちろ鳴く
母優し祖母なほ優し富有柿
紫紺なる空より木の葉降るばかり
冬銀河無窮の楽を奏でけり
十一面観音多し湖北雪
幸せといふ逃げ水のやうなもの
別れ霜語ることまだあつた筈
佳作
「散歩道」 松川 正樹
寒明けや門で渡さる万歩計
春風や少年鳴らすサキソフォン
谷戸を行く水豊かなり春の鳶
耕人の山際にあり雲ひとつ
せせらぎや春惜しみつつ橋渡る
葉桜の影の色濃き日暮かな
老鴬の声よく通る切通し
供花もなき野仏一つ五月闇
老農の手指忙しく田草引く
夕立あと丘の起伏に日の光
坂長く踵に絡む残暑かな
ちちろ鳴く人影もなき治水の碑
虫好きの少年と逢ふ散歩道
秋燕するりと抜けし歌碑の道
分け入れば木の実時雨の谷の径
夕星や刈田の匂ひ芒洋と
晩鐘やいつもの道の冬落暉
畝つくる人を遠くに野水仙
探梅の列の後尾に背を伸ばす
坂上に久闊の友日脚伸ぶ
奨励賞
「栞紐 」 名和 よちゑ
平積みに並ぶ文豪夏休み
剣玉の握りの汚れ爽やかに
子の髪に付いて離れて秋の蝶
鬼の子に程良き風の子守唄
ガム噛んで警め受くる美術展
ぽつかりと口開く古墳の花
月に雲ひと夜の雨に沈む村
かはほりや水の匂ひの闇に消ゆ
水引いて虫一斉に輪中村
寄せ墓の重なり合うて萩の風
包丁の力を抜いて桃を剥く
かぞへ直す鬱の画数夜半の秋
曖昧な助詞の一字に泣く夜長
夜学生交換日記捨てきれず
美濃国晩生の稲の花揺るる
汀女の忌月夜に渡る長良橋
長き夜や少しほつるる栞紐
稲穂波癌病棟の南口
月の宿鳥獣戯画に迷ひ込む
水澄むや芭蕉涅槃図の前に立ち