作品紹介 俳句

獅子吼令和7年9月号より

主宰の一句

XYZてふカクテルや星月夜   鵠士 


主宰句(道統の句) 大野鵠士

「アンパンマン 」 

箱庭にあり深山も幽谷も

鍵盤は音の段階夏雲雀

鉄線花風に感電してゐたり

黴とても生きとし生けるもののうち

前の世は黴かもしれず君と僕

黒南風や類人猿に白目なく

風に唸るは手裏剣か蝙蝠か

草引くや節句働きにも似たる

一目千本一日千本草引かむ

草毟るせめて十本十五本

みちのくの旅回想二句

捩花に象潟の畦真直ぐなり

雪渓を斜めに過り月の山

方丈の夢の庵かバンガロー

琵琶もよしマンドリンよし山の家

令夫人日傘さながらパラシュート

熱帯魚流し目もなく横向けり

日雷アンパンマンも臍隠せ

雷のふるさと雲のあのあたり

棚の奥より徐ろに蝮酒

とことはに飛ばむ記憶の飛魚は

遠浅の沖に風あるヨットかな

孫よりも仙人掌慈む女

仙人掌の花に挨拶朝の道

峰雲に見えたる腕力かな


獅子吼令和7年9月号より

伊吹燦燦(幹事同人代表句) 大野鵠士選

蛞蝓に保身てふものなかりけり     各務 恵紅

空梅雨の小昼アンパン一つ喰ぶ     本屋 良子

明滅の蛍高みへ消えゆけり       溝野智寿子

そんなにも続けて鳴くな雨蛙      藤井 大和

サーファーの卯波乗り切る立ち姿    上田 旅風

蜘蛛の囲や五時のチャイムに出来上り  谷口 樵歩

百年を待ちし恋なり竹の花       小林 節子

母の日の茂吉の玄鳥喉赤し       瀬尾 千草

蛍火の山動かして来たりけり      面手 美音

隠沼や雨にそはそは蟇         武山 瑠子

一世紀を黙して今ぞ清水噴く      塚本 六可

草取の草に遊んでもらふ母       片桐 栄子

独り居の窓を夾竹桃塞ぐ        渡辺 靖子

雨の夜はどこかに蛇の這ふ気配     奥山 ゆい 


鵜舟照覧(維持同人代表句) 大野鵠士選

蟷螂の千々に乱れて生まれけり     矢野 鞆女

十七もまた素数なり七変化       島  亜蘭

蛇苺熟れ贖罪の色深し         瀬戸 斐香

夕焼の消えて定まる夜の闇       柴田 恭雨

放つ手に影残りたる蛍かな       五島 青沙

鬼百合の散りゆく様の芝居めく     彦坂こやけ

濃紫陽花坂より低き屋根瓦       武藤 真弦

母の癖思へる古き浴衣かな       内藤千壽子

らつきよく涙はドラマ佳境にて    村上 三枝

どしや降りの雨に抗ひ立葵       松川 正樹

落日か酢漿草の実はミサイルか     岡﨑 裕乃

腕前の腕を鳴らして心太        海老名登水

父の日は戦死の父の命日よ       棚橋 悦子

犬老いて半眼流しゐる薄暑       大成 空阿 


踏青抄(一般会員代表句) 大野鵠士選

小判草には道草を知られをり      衣斐佐和子

弾けたる泡はビールの小言かも     河田 容子

目覚めたる大地息する芒種かな     谷 ふみ香

この辺りに青畝の生家青時雨      太田 千陽

老鴬に時忘れたり深大寺        石原かめ代

呂呂と鳴く河鹿は谷の水の精      日乃藤雨子

靴の紐直すめまとひ払ひつつ      西尾えり子

時といふ力に梅酒寝かせおく      松嶋 粋白

留守番の金魚一匹電話鳴る       三島 乙葉

盛んなる河骨鯉はゆつたりと      山口 惠祥

短夜の浅き眠りに恋ひとつ       碧  理子 

一つ葉集(同人・一般会員の枠無し)代表句

(選者 柴田 恭雨) 

翡翠の一閃瑠璃色の残像            溝野 智寿子

炎天下火達磨のごとバス待ちぬ  面手 美音

ペンライト持たぬ熊蝉大合唱          谷口 樵歩 

恋しきは京の四条の葛切りよ       松川 正樹

川音に待つ楽しさや蛍狩                   藤井 大和

笛の音の青く溶け入る夏の宵          日乃 藤雨子

独り居の夕餉は冷し汁のみと          各務 恵紅

封切れぬ古酒の泡盛棚の中               橋村 洋子

大樫の小枝さやさや風涼し     矢橋 初美

(選者詠)

道修町ゆくや折しも薬降る       恭雨

東花賞

 東花賞(とうか)は、獅子門の結社賞で、年に1回、20句一組で募集し、審査は道統と獅子門内部の審査員および外部審査員1名により行われます。

 通常は、10月中旬頃に応募締切、審査を経て翌年の獅子吼1月号で結果が発表されます。大賞、佳作、奨励賞が設けられています(該当なしの場合もあります)。

 令和6年の作品募集は、9月を予定しています。

第20回東花賞受賞作品(令和6年)

無窮の楽 」 柴田 恭雨

蓮弁の菩薩の笑みよ春の風

春雷や不安は胸に常に在り

屠らるる牛炎天を曳かれけり

夏菊に朝風細く通り過ぐ

ラジオよりユーミンの声夜の秋

里山へ迫る夕闇桐一葉

日差しまだ強しカンナの咲き乱る

開いてはまたすぐ畳む秋扇

畏れとは憧れなるや迢空忌

湖に風透き通る白露かな

空の色水に映して近江秋

秋鵜飼闇深ければ光濃し

柳散る去りゆく人は振り向かず

故郷の厠の隅にちちろ鳴く

母優し祖母なほ優し富有柿

紫紺なる空より木の葉降るばかり

冬銀河無窮の楽を奏でけり

十一面観音多し湖北雪

幸せといふ逃げ水のやうなもの

別れ霜語ることまだあつた筈


佳作

「散歩道」 松川 正樹

寒明けや門で渡さる万歩計

春風や少年鳴らすサキソフォン

谷戸を行く水豊かなり春の鳶

耕人の山際にあり雲ひとつ

せせらぎや春惜しみつつ橋渡る

葉桜の影の色濃き日暮かな

老鴬の声よく通る切通し

供花もなき野仏一つ五月闇

老農の手指忙しく田草引く

夕立あと丘の起伏に日の光

坂長く踵に絡む残暑かな

ちちろ鳴く人影もなき治水の碑

虫好きの少年と逢ふ散歩道

秋燕するりと抜けし歌碑の道

分け入れば木の実時雨の谷の径

夕星や刈田の匂ひ芒洋と

晩鐘やいつもの道の冬落暉

畝つくる人を遠くに野水仙

探梅の列の後尾に背を伸ばす

坂上に久闊の友日脚伸ぶ 


奨励賞

「栞紐 」  名和 よちゑ

平積みに並ぶ文豪夏休み

剣玉の握りの汚れ爽やかに

子の髪に付いて離れて秋の蝶

鬼の子に程良き風の子守唄

ガム噛んで警め受くる美術展

ぽつかりと口開く古墳の花

月に雲ひと夜の雨に沈む村

かはほりや水の匂ひの闇に消ゆ

水引いて虫一斉に輪中村

寄せ墓の重なり合うて萩の風

包丁の力を抜いて桃を剥く

かぞへ直す鬱の画数夜半の秋

曖昧な助詞の一字に泣く夜長

夜学生交換日記捨てきれず

美濃国晩生の稲の花揺るる

汀女の忌月夜に渡る長良橋

長き夜や少しほつるる栞紐

稲穂波癌病棟の南口

月の宿鳥獣戯画に迷ひ込む

水澄むや芭蕉涅槃図の前に立ち

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